ギターアンプはエレキギターのサウンドを決定付ける本体とも言えるべき機材です。音楽シーンにエレキギターが登場して以来、アンプの歴史も始まりました。
ロックやジャズ、ブルースを中心に今となってはあらゆるジャンルに求められるエレキサウンドがあります。ギターアンプが担う役目はただ一つ 「最高の音を引き出す」 ただそれだけです。
最高の音は、使用しているギターやエフェクター、演奏会場の広さ、スピーカーやマイクの選択、そして演奏者の数だけ存在します。
時代が進むにつれて飛躍的に技術も進歩していきましたが、未だに古い時代のギターアンプ、そしてその時代の”音”も音楽には必要不可欠です。
エレキギターの本体だけでは無く、ギターアンプの持つ表現力や存在感をも重視して初めて良い音が作られます。
”力強く太い音” ”心地良い甘い音” ”荒々しい激しい音” ”か弱い繊細な音”
Marshall1987はそれらの音色を表現してくれるアンプの一つです。そして決して無個性にはならず、いつもMarshallらしさを感じさせてくれるアンプなのです。
・Marshall1987とは
Marshall1987というのはイギリスのギターアンプメーカーMarshallのJCM800と呼ばれるアンプシリーズの一つです。
名前に関して少々ややこしいところがあります。JCM800と言うと2203という製品を単独で指す場合が一般的になっています。
1987やその他1959と言った製品もJCM800の系統ですがこれらはそのまま1987や50W(ワット)と呼ばれています。
JCM800よりも新しいシリーズにJCM900やJCM2000という製品が存在しており、世代が新しくなるにつれて機能や汎用性は高くなっていきますが、良くも悪くもサウンドも新しい物になっています。
また1987という製品だけでも、製造された年代によって使われているパーツが異なっていたり、外観が異なっていたりします。
新しく製造されている物で1987Xという製品がありますが、これも基本的には1987のコンセプトをそのまま目指しており、より現代でも扱いやすいようにとエフェクトループという機能が追加されている製品になります。
・音を知りたい
JCM800シリーズはエレキギターという歴史の中で、特にロックというジャンルの中で大いに活躍してきましたので、そのサウンドは非常に多くの人の心を捉え、そして記録されてきました。
中でも1987の代名詞的なギタリストとして、マイケル・シェンカーやイングヴェイ・マルムスティーン、ジェフ・ベックがあげられます。
彼らのサウンドの全てが同じアンプというわけではありませんし、使用機材や録音後のミキシング等も様々なので、聴こえ方も当然異なってきますが雰囲気は伝わるでしょう。
しかし現物を目の前にして音を鳴らす以外は”本物の生の音”を聴くのは不可能です。これはギターアンプに限らず楽器本体そのものや、エフェクターなどの機材もです。
それでも実際に音を聴いてみたいという欲求に駆られるのは当然ですので、あまり音色の加工をされていないブートレグ音源が参考になります。
・少しマニアックなプレゼンスノブの効果
marshall1987にはプレゼンス(presence)という名前のコントロールが備わっています。
このツマミは他のギターアンプやベースアンプでも見かける事がありますが、おおよそはトレブル(高域)よりも更に高い音域を調整する役割で使われています。
しかしJCM800の場合は単純に超高音域の音色調整とは言いにくい感触になっています。
・歪み量の変化
プレゼンスノブを回せばわずかながらゲインが増すような印象を受けます。これは出力された信号をもう一度、入力側に戻すときのエネルギー量の調節をしている役割となっているからです。
しかしプレゼンスが0の時と10の時を比べてもごく僅かな変化しかありません。よく聞き比べれば音の伸びが少しだけ上がり、歪みの影響で高域が付加されています。
もしプレゼンス0のボリューム10の状態からプレゼンスを10にすれば、まるでボリュームが10.2ぐらいに上がったような効果が得られるというわけです。
しかし高域が上がるという事はその分ノイズも目立ってくるので、クリーントーンを作る時はプレゼンスは下げておいても差支えが無いと言えます。
・超高域が変化する理由
プレゼンスによって歪み加減にも影響を与えるという事は、つまり倍音の付加量も変わるという事です。
ベース、ミドル、トレブルのトーン調整は入力された信号の一部を通さないようにせき止めるという役割になっています。
プレゼンスでは倍音が付加された事によって結果的に音色が変化するので、利き具合いが特殊な印象を受けるのです。
とは言ってもそんな内部の事情などを知らなくても耳で聴いて調整すればいいので、音作りを試行錯誤する時は特に気にせずノブを色々いじってしまえば良いです。
・出せる音域
marshall1987は2つのボリュームノブを組み合わせれば超低域から高域まで発音できるアンプです。
このアンプは50ワットモデルなので、100ワット出力の1959や2203ならばよりレンジの広い音作りも可能です。(スタジオでボリューム全開で2時間程弾き倒していたら、次の日までずっと耳鳴りが続きましたので無茶は止めましょう。)
・具体的な音域
スペクトラムアナライザを用いれば具体的な数値が見て取れます。もちろんマイクやスピーカーの組み合わせ、使っている楽器にもよりますが、おおよそ60ヘルツ~7000ヘルツは出ています。
深く歪ませれば10kヘルツ付近にも倍音が付加されていきます。それよりも低い音や高い音もマイクは拾いますが、アンプで作られた音というよりは、スピーカーの振動やキャビネットの共振の影響と言った方が正しいでしょう。
・おおよその音域の傾向
Marshall1987はチューブアンプなので中域が強いサウンドになります。
ボリューム1の音ならばどんなセッティングでもよく通る音になります。ただし高域を強調しすぎると耳にきつい音になってきますが、あくまでローファイなので極端に硬い音にはなりません。
ボリューム2だけを用いると丸い音になりますので、アンサンブルによってはモコモコしすぎてよく聞こえなくなってしまいます。しかしクリーンで使えばジャジィな甘い音もクリエイト出来ます。
CD等で聴ける音はアンサンブルの邪魔をしないように、またエレキギターの美味しい部分を強調する為にイコライザーで低域と高域を削っているパターンも多いです。
真空管を変えればサウンドキャラクターを変える事が出来ます。
歪み加減だけではなく音域も広がったり狭まったりしますので、同じ型番の真空管でも違うメーカーの物を試してみると良いです。
・4つのインプットの違い
marshall1987にはインプットジャック(ギターシールドを接続する端子)が4つ設けられています。
他のアンプならスイッチで歪みや音量を切り替えたりする機能があったりしますが、1987は基本的にどこの端子も常に機能しているようなものです。
ただし繋ぐ場所によって音質と出力が若干違います。またボリュームノブもそれぞれのチャンネルに連動しているようになっています。
左側2つの端子はボリューム1と連動しておりチャンネル1と呼んだりします。
右側2つはボリューム2と連動しておりチャンネル2という呼び方です。左右の違いはボリュームのノブの違いと見ていいので音の違いもよく分かりますが上下の違いは変化が小さく分かりづらいです。
これらのインプットジャックはギターからの信号の受け入れ度合いにわずかな差があります。
上側が100%だとしたら下側は80~85%程度というイメージです。つまりほんの少しだけ音量が小さくなります。言い方を変えれば元気がなくなった感覚です。
抵抗値の関係でこのような現象が起こるので、若干ですが高域も弱くなる印象になります。
基本的には上のインプットジャックに繋いで、ギターの出力が高くてクリーンな音が作りにくい時は下のインプットに繋げば良いです。
ボリューム1(=チャンネル1)とボリューム2(=チャンネル2)の違いですが、これらはそれぞれハイトレブルとノーマルという名前になっており、ボリューム1は低域から高域まで出力しボリューム2は超低域から中域までを出力します。
名前はノーマルとなっていますが、音色の感覚からしてボリューム2=ノーマルチャンネルの方はモコモコしすぎて扱い辛いです。なので普通に使う場合は左上のジャックで問題ありません。
面白いのはお互いのチャンネルはほんの少しだけ繋がっていて、チャンネル1にギターをさしているのに、ボリューム2を上げるとわずかながらに音が漏れます。逆もまた然りです。
・インプットジャックの応用
4つのインプットが常に機能しているのを利用して面白い事ができます。
ギタリストが2人居る時にどの端子でもいいので(チャンネルを分けた方がよりわかりやすい)ギターを2本差せば、1台のアンプで両方の音を出す事が出来ます。
ただしアンプの中で音がミックスされるので、歪んでしまって何を弾いているのかわからなくなるかもしれません。もちろん3本4本と繋ぐ事も不可能ではありません。
応用として演奏者は1人だけれど複数の出力を持った楽器を使うなどをすれば何か新しいサウンドを作る事も不可能ではありません。
・チャンネルリンクで音作り
ギターを1本どこかのインプットジャックに繋いで、余りのチャンネル1とチャンネル2を短いシールド(=パッチケーブル)で接続してやれば、両方のボリュームを合計して出力する事が出来、より音作りの幅が広がります。
ただし左上にギターを刺して左下と右上にパッチケーブルを繋いだパターンと、左下にギターを繋ぎ左上と右上をパッチケーブルで繋いだパターンは全く同じ状態の音になります。
回路図を見ると下のジャックには抵抗が付いていますが、途中で上のジャックとも繋がっているので上下同時に繋ぐと抵抗を迂回して信号がアンプに入っていく仕組みになっているからです。
・作れる組み合わせは3パターン
チャンネルリンクは繋ぎ方は色々考えられるのですが、上下のインプットの関係性があるので実際に作れる組み合わせは3パターンになります。
ボリューム1も2も通常の出力、ボリューム1だけ低出力、ボリューム2だけ低出力という組み合わせです。
大きな変化は無いとは言えほんの少しいつもと違う音を出したい、という時に試すと新鮮味が感じられるので是非試してみると良いでしょう。
・購入するなら
marshall1987を購入する場合は本体の状態を気にする必要があります。
というのも楽器屋でも見かける頻度としては少なく、入荷していても新品ではなく中古品が多いです。
私は新品ではなく1988年製のオーバーホール済みの中古を手に入れましたが、外観にボロがあるものの状態はすこぶる快調です。
しかし長い目で見れば新しい物程リスクは少ないので、新品を手にするのが無難です。もしも理想のサウンドが手に入らなくても売りやすいというメリットもあります。